中森明菜さんを「盗撮」したカメラマン
2013年11月、当時芸能活動を休止して療養中だった歌手の中森明菜さんが室内にいる写真を小学館から委託を受けたカメラマンが撮影し、「女性セブン」2013年11月21日号の記事として掲載した件で、中森明菜さんが同誌を発行する小学館などに2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2016年7月27日に東京地裁(水野有子裁判長)であった。
判決で水野裁判長は、盗撮を行ったカメラマンは軽犯罪法違反(のぞき見)で科料の略式命令を受け、有罪になったことなどに触れ、「撮影態様は悪質で、編集長は違法性を認識した上で確信犯的に写真を掲載した」と述べ、同社側には550万円の支払いを命じている。
ニュース記事を見て探偵業にも関わる問題でもあると思ったので、本日はこの話題をお伝えしていきたいと思います。
2016年7月27日 朝日新聞より引用
中森明菜さんを「盗撮」、小学館に賠償命令 東京地裁
自宅内にいる姿を盗撮した写真が週刊誌に掲載され、精神的苦痛を受けたとして、歌手の中森明菜さんが小学館側に2200万円の損害賠償を請求した訴訟の判決が27日、東京地裁であった。水野有子裁判長は「芸能人であることが、自宅で過ごす姿をのぞき見られることの違法性を軽減する理由にはならない」として、小学館側に550万円の支払いを命じた。
問題となったのは「女性セブン」の2013年11月21日号の記事。
判決によると、掲載された写真は小学館から委託を受けたカメラマンが、中森さん方近くのアパートの廊下から撮影した。判決は、カメラマンがこの撮影行為で軽犯罪法違反(のぞき)で有罪になったことなどに触れ、「撮影の態様は悪質」と指摘。また、小学館は写真の違法性を認識しながら掲載に踏み切ったとして「会社ぐるみで不法行為をしており、コンプライアンス上の問題が大きい」と述べた。
判決を受け、中森さんの代理人は「一部の行きすぎた取材に警鐘を鳴らす判決だ」と評価。小学館広報室は「判決文を精査のうえ、しかるべく対応致します」とコメントした。
スクープを狙ったことで犯罪を犯した
この問題では、同カメラマンが法を犯していると考えられる行為が2つかある。
まず1つ目は、中森明菜さんの自宅室内を撮影した盗撮行為なのだが、著名人でなくても自宅内というプライベートな空間を他人にの覗き見されていたのだから「プライバシーの侵害」となるのは上記の判決は当たり前だろう。
そしてもう1つ問題となる行為がある。
2つ目としては、中森明菜さんの自宅近くに所在するアパートの廊下から撮影している点だ。
どのようなマンション・アパートでも、建物内の廊下というのは住人以外は入れない共有部分となる。
例外として、第三者が建物内に入る理由として推測されるのは、宅配・点検などの業者や、住人宅の訪問を目的とした場合のみだろう。
それ以外で建物内に立ち入る行為は、無断で侵入したということにもなる。
本件の場合も、「中森明菜さんの自宅室内を撮影したいので入ってもいいですか?」と真実を住人や管理人に話して、許可を受けていること100%考えられないだろう。
刑法13章第130条では、「(住居侵入等) 第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」と規定されているのでの、同カメラマンの取った行動は住居侵入罪とも判断できる。
裁判の判例でも、「外側とあきらかに区別された場所(囲繞地)」へ許可なく侵入することは有罪になるのだ。
カメラマンという職業であるため、「個人情報」や「プライバシー侵害」など仕事に関係する最低限の法律知識はあったものと推察されるが、「スクープ写真」という目的に目がくらんでしまったがために犯した犯罪でもある。
また、写真が掲載された「女性セブン」が発売されるまでに、複数の編集者などが同記事を目にしていると思うのだが、やはり「スクープ写真」という目的にに目がくらんでしまったがために正当な判断ができなかったのだろうか。
嘘の肩書などを名乗って許可を受けた場合
関連する問題として、嘘の肩書などを住人や管理人に名乗って、許可を受けている場合ではどうだろうか。
嘘の肩書などを伝えるという「身分詐称」の場合などは、刑事上で罪に問われたり、損害賠償の対象にもなるだろう。
よく耳にするニュースを例にすると、「振り込め詐欺」の電話などもこれに該当する。
「振り込め詐欺」の会話の中で登場する人物の役柄は、親族・警察・弁護士など多種にわたるが、すべての人物が身分を偽っており、嘘を言って「お金を騙し取るという目的」もあるので詐欺罪にも該当する。
また、「振り込め詐欺」でもリストなどを作成し、不特定多数の人物に電話をするなど、組織的な犯行が認められる場合などは組織犯罪処罰法にも問われる。
法律的に考えると「振り込め詐欺」の被害者は、身分を詐称した者に対して損害賠償も請求できるのだが、非常に難しいのが現実だろう。
「振り込め詐欺」が事件となって警察が介入して動かない限り、犯人個人の特定はできないだろうし、例え犯人が特定されて逮捕されたとしても、警察が犯人の個人情報を教えないからだ。
ニュースなどで報道されるような事件であっても、氏名・年齢・大まかな居住地・勤務先などの情報しか判明しないだろう。
悪質な探偵業者が犯した類似事件
過去に探偵業者が犯した「プライバシー侵害」や「住居侵入」に関わる事件を下記にまとめてみた。
盗撮の探偵に賠償命令 プライバシー侵害認める
2006年1月26日
探偵の浮気調査で隠し撮りされ、精神的苦痛を受けたとして京都市上京区の女性が探偵業者(京都市中京区)に慰謝料など約520万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、京都地裁は26日までに、プライバシーの侵害を認め、業者に50万円の支払いを命じた。
判決理由で中村隆次裁判官は「無断でビデオカメラを設置し、原告の自宅に出入りする人を撮影しており、プライバシーの侵害は明らか」と指摘した。
探偵業をめぐる訴訟に詳しい河原林昌樹弁護士は「隠し撮りによるプライバシー侵害を認めた判決は聞いたことがない。業界への警鐘になるのでは」と話している。
判決によると、探偵業者は浮気調査を依頼され2003年1月、女性のマンション自室近くの配電盤にビデオカメラを設置し、出入りする人物を撮影した。
※上記の件は探偵業者による居住先マンション内の隠し撮りによって、個人の「プライバシー侵害」が認められた探偵業界としても初の判例である。
住居侵入容疑で探偵逮捕 発信機外そうと敷地内に
2008年7月15日 デーリー東北
十和田署は12日、住居侵入の現行犯で八戸市新井田館下、探偵業者W容疑者を逮捕した。
調べではW容疑者は同日 9時20分頃、十和田市西21番町の会社員男性方で乗用車に取り付けた位置情報発信機を外すため、敷地内に侵入した疑い。
不審な動きをするW容疑者を男性が発見し近くの路上で取り押さえた。
同署に拠ると発信機は携帯電話で位置を確認できる市販の装置で、W容疑者が以前、探偵業務のために車の底に設置した。
同容疑者は容疑を認めているが、業務内容については黙秘しているという。
北東北地区の探偵業者で構成、W容疑者も加盟するTH調査業協会のS氏は、「依頼者が頼まれた業務でやむを得ない特殊な例であり窃盗などを目的とした侵入ではない」と文書でコメントした。
※上記の件は探偵業者が車両底部にGPS発信機を取り付ける目的で居住敷地内へ侵入し、住居侵入の現行犯で逮捕された事件である。
優良な探偵業者は法律を守っている
本件のカメラマン同様に、各種調査で個人を撮影することが多い探偵業者にも「個人情報の取り扱い」「プライバシーの侵害」「ストーカー行為」などの問題はつきまとう。
例えば、優良な探偵事務所や興信所では、浮気調査・素行調査・不倫調査などの行動系の調査だけを考えても下記の項目に注意している。
1.対象者や浮気相手以外、第三者の撮影は行わない。
2.対象者の居住先であっても戸建・マンション・アパート内などには立ち入らない。
3.対象者の居住先であっても戸建・マンション・アパート内などは撮影しない。
4.使用目的が特定できない第三者に盗聴器・盗撮器などはレンタルしない。
5.使用目的が特定できない第三者にGPS発信機などはレンタルしない。
6.接触人物が浮気相手などでない限り、尾行は行わない。
7.浮気相手などでない限り、氏名・住所などの個人情報は報告書に記載しない。
8.個人情報の漏洩を防ぐため、調査結果報告後にはすべてのファイルデータ・書面は破棄する。
詳しくはまだまだあるのだが、おおまかにはこんな感じになる。
悪質な探偵事務所や興信所などの場合、違法性のある調査や撮影が「盗撮」「プライバシーの侵害」「ストーカー行為」などに利用されることを知りながら、正当な理由がなくても調査を請け負い、撮影をしている。
現在は、このような悪質な探偵事務所や興信所は少なくなってきたと思われるが、まだまだ存在しているのも事実なのだ。
カメラマン同様、探偵調査員としても「決定的な浮気の証拠を撮影したい」という精神が裏目となり、法律まで犯さないように、現在は探偵業界唯一の法律となる「探偵業の業務適正化に関する法律」で探偵業に従事する従業員の教育も義務付けられている。
「法律」というものに対しての教育を、1人1人の探偵調査員がしっかりと身に付ければ、どんな調査であっても行動は自然と制限されるはずなのだが、目的を達成することを優先するがゆえ、レアケースとして法律を犯してしまう者が出てくるのかもしれない。